即興表現 〜原点を見つめ、楽しさを味わう〜」
平成国際大学 教授 村田芳子先生
<講師プロフィール>
平成国際大学スポーツ健康学部教授。筑波大学名誉教授。1976 年東京教育大学大学院修了後、筑波大学附属中学校、三重大学、岡山大学を経て、2000 年に筑波大学、3 年前に筑波大学を定年退職し、2017 年4 月に平成国際大学に新設されたスポーツ健康学部の学部長として着任、現在に至る。専門は舞踊教育学。平成10 年度及び20 年度学習指導要領作成協力者(文科省)。 (公社)日本女子体育連盟顧問。現在、新たな大学で「踊るキャンパス」を目指して奮闘中。
<主な内容>
ダンスもスポーツの動きも、一瞬一瞬のうちに消えてはまた新たに生まれる、その変化の連続で成り立つ即興の世界である。我々はこのはかなくも確かな動きの世界に身を投じている。その意味で、「即興表現」は、動きの最も根源的で原点となるテーマであり、私の40 年以上に及ぶダンス指導の根幹ともなるテーマでもある。と同時に、「自由な表現を教えること」、「即興を教えること」は、指導者にとって古くてなお新しい難解なテーマでもある。
1.そもそも「即興表現」とは?
即興の「即」は「同時に、即座に」という時間性を意味し、「興」は「内から生まれる」という内発性を意味している。即興表現は、直感的に捉えたイメージをその場で思いつくままに表現する行為をさし、創造行為の最も自然でしかも純粋な生きた形態ともいえる。即興表現の特徴と魅力は、創る・踊る活動が一体となって「いまこの瞬間に感じるままに踊る」という新鮮さにあり、他者とのコミュニケーションの中で偶然に起こるひらめきや計算しない反応が、練り上げた作品とは異なる生きのよい表現を生み出す。また、初心者からプロまで、技術や経験を問わず個々の持ち味を生かした表現を実現できる幅のある活動として注目されるのである。
2.ダンス教育における「即興表現」の位置づけ
ダンス教育においては、表現の行為自体やプロセスを重視する考えから、近年、即興表現が積極的に位置付けられて来ている。現在、学習指導要領においても、即興表現と作品創作の2 つの表現方法(楽しみ方)を軸に学習内容と学習過程が構成されている。
ここでは、戦後の既成作品の教授から創造的表現への転換以後、作品創作過程の研究と実践、そして、即興表現が学習指導要領において市民権を得るまでの変遷とその裏事情を概観する。ダンスは「他者と豊かに関わり合いながら『今、ここ』から創り出す問題解決学習」のモデルとしてこれからの学校体育をリードする存在として注目され、「即興表現とコミュニケーション」からは「みんなが違う個性的な存在であること、他者との関わり、双方向の関係、創造的な生成、ゴールフリー学習・・・」といった、これからの学習指導の未来の姿が見えてくる。
以下に、即興表現をめぐるトピックやポイントを思いつくままあげてみる。
・ダンス教育における即興表現の位置づけの変遷・・・ダンス単元がそのまま作品創作⇒作品の基礎(身
体つくり・動き創り)と作品創作⇒即興表現と作品創作の2つのステージへ
・「即興表現」をめぐるいくつかの誤解、教師が抱く不安
・即興表現は「ひと流れの動き」に対応し、作品創作は「ひとまとまりの動き」に対応する
・リズム系ダンスにおける即興と表現系ダンスにおける即興
・即興表現を豊かにするコミュニケ―ション形態の授業
・即興表現にも段階(発展)がある
・「即座マネ」から「再構成」、そして「即興表現」へ
・即興表現は、「動きにも賞味期限がある?」、「生まれたてが一番」、「バイ・チャンス」
作品創作は、「続きの絵を描く」、「熟成したワイン」、「足し算と引き算」
・そもそも授業自体が予測がつかない即興の世界、スポーツだってゲームは即興
3.「即興表現」の実際の展開
即興表現を成立させる「他者・音楽・モノ」から、実際に即興で動いてみましょう。
以下、候補をあげますが、この中から当日出会った学生さんの状況を見て、即興的に決めます。
どういう設定やテーマで、どういう言葉かけで、そして、学習者がどういう反応を見せ、それに対してどのような軌道修正をしていくか、ハラハラ・ドキドキ・ワクワクしながら見てください。
・音楽のリズムに乗って、即座マネから即興再構成へ
・特徴のある音楽を手がかりにした即興表現
・体の部分を使った即興表現
・「○○カルタ」(イメージカルタ・オノマトペカルタなど)を使った即興表現
・モノ(イスや新聞紙など)を使った即興表現と演出
・究極の即興「バイ・チャンス」…これができたら最高です。
見ていて参加したくなった方は、どんどん侵入・介入してみてください。踊る人も見ている人も会場全
体が、多様な即興表現をともに創りあげる軽くてしなやかな空間になりますように…。
≪主な参考文献・教材DVD など≫
・村田芳子編著:中学校ダンスDVD2 巻(創作ダンス・現代的なリズムのダンス),パンドラ,2015
・村田芳子編著・指導:「表現運動‐『リズムダンス』の最新指導法」(DVD 付き).小学館,2012
・村田芳子編著・指導:「表現運動‐『表現』の最新指導法」(DVD 付き).小学館,2011
・村田芳子総監修・指導:「新・ダンス授業講座‐ダンス必修化に対応した授業展開‐」DVD 全10 巻,CD6 巻,
ダンス授業実践資料集,ユニバース,2010
・村田芳子:いま ここ わたし ―動きの世界と即興性-.女子体育 50(4):4-5,2008